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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ツ)3号 判決 1976年4月09日

静岡県浜松市恒武町一八九番地

上告人

上野輝雄

右訴訟代理人弁護士

小石幸一

静岡県浜松市元城町三七番地の一

被上告人

浜松税務署長

鈴木信雄

右指定代理人

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四八年(行コ)第一号所得税額の更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和五〇年一〇月六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小石幸一の上告理由について

原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人の係争各年分の所得につき、実額計算にはよりえず推計によつてこれを算出するほかはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の判断遺脱はない。また、本件更正処分が課税庁の調査に基づいて行われたものであることは、原審認定の事実から明らかである。その余の所論の点に関する原審の認定判断も、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて首肯しうるところであつて、その過程に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田豊 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林譲)

(昭和五一年(行ツ)第三号 上告人 上野輝雄)

上告代理人小石幸一の上告理由

第一点 控訴裁判所は請求の一部を脱漏した違法がある(民事訴訟法第一九五条に該当している。)。

上告人が昭和三十二年九月十日付にて本件所得税額の更正決定取消請求訴訟を提起した理由は甲第二号証記載の数字が示すとおり該更正決定は名古屋国税局の収支計算法に基いてなされた事実を同国税局の浜口久太郎主査より昭和二十八年度および二十九年度の収支につき具体的に数字を示して更正決定をなした旨を具体的に明示されそれに基き検討した結果、借入金利息、貸倒金など二、三点につき国税局側に誤認があることを確認したため短期間に解決出来るものと確信し本訴を提起したものである。即ち本件は更正決定前査察と言う強制力に基き一ケ年有余の年月に亘り調査した資料に基き実質収支計算法に基いて更正決定がなされた事が明々白々であり争点は二、三点に過ぎず上告人はこの点の判断を求めたものであるが第一、第二審を通して被上告人はこの点について何等の立証もなく第一審裁判所も控訴裁判所も本件は推定計算法に基いてなされたものであるとの先入観に基いて資産増減法によるものと断し本訴提起後十数年に亘つて調査した資料を証拠としたのは遺憾至極である。

上告人は前述のように実質計算法に基いて更正決定を受けたのであるから上告人は収入、必要経費、貸倒金支払利息など三、四点を限定してこれを争点として裁判所の判断を求めたに過ぎない。

然るに訴訟の進行は上告人が事前調査に不協力であつたとの被上告人の一方的主張をそのまま容認して資産増減の調査が容認されて訴提起より起算して十有八年の長きに亘る第一、二審の判決は上告人の求めた実質計算の審理、判断は全然行われていないこれは民事訴訟法第一九五条該当の違法がある。

第二点 控訴判決は被上告人が推定に基く違法な更正決定を容認した違法がある。

本件更正決定が実質収支計算方式により決定された事実は第一点において主張しているとおりである。更に右事実を立証する重大なる事実は被上告人は査察という事前調査に基き昭和三十一年十二月十四日付にて更正決定をなし昭和三十二年三月二十七日付にて名古屋国税局査察課員加藤孝之名義にて上告人に脱税の容疑ありとして静岡地方検察庁に告発がなされ右事件は紺野検事が長期に亘り広範囲に亘つて捜査をした第一、第二審判決は右事実を軽視し上告人が事前調査不協力、正規の台帳、帳簿の一部が無かつたので資産増減法に基く推定方式による以外に方法はなかつたと断定しているが、上告人の業態は個人営業であり法定の帳簿は必要ではない。

本件訴提起後において告発事件が不起訴処分となつてから全力を揮つて上告人の資産増減に調査活動がなされたものであり本件は民事訴訟法第一三九条に該当する違法不当の資料を以つて上告人の所得額は更正決定額を超える所得があつたと杜撰な判断をして上告人の請求を棄却している。これは要約すると事前調査が更正決定の前提条件である大前提を無視し何等資産増減の調査も為さず無資料のまま更正決定をなした事を容認した違法の判決である。

第三点 控訴判決は民法第一条に違反する権利乱用を認め憲法第二十九条により保障されておる上告人の財産権を侵害する憲法違反の判決である。

民法第一条三号は権利の濫用はこれを許さずと明定している本件記録を一読すれば乙号証の大部分は本訴提起後に調査した資料であり民訴法第一三九条による時機に後れた功撃防禦方法である。それを第一、第二審とも実質計算法によると争点は簡であり二、三年で解決出来る事件を住再被上告人のなすがままに資産増減法に基くものだと独断して新資料の作出を待ち二十年にも及ぶ長期訴訟に誘導し上告人を倒産状態に陥れた第一、第二審判決は被上告人の行使した権利の乱用に協力し上告人をして多額の訴訟追行の費用を空費せしめて倒産させた憲法第二九条第一項違反の判決である。

第四点 第一、第二審判決は採証の原則に違反するとともに事実認定についても経験則違反の違法がある。

(1) 採証の原則違反の違法について、

甲第二号証は課税庁が合法の査察に基き事前調査の結論として更正決定をしたものであり本訴請求原因の主張は右事実につき二、三の誤認の是正を求める目的のみであつた。甲二号証記載の事実はその算出において一厘一毛の違いなく更正決定の利益金額と一致している甲二号証記載の事実の審理こそ本件訴訟の根幹であつたのに原判決は更正決定に何の関係もないその後の証拠を採用しておる、これは民訴法第一三九条に違反するとともに採証の原則にも違反した違法の判決である。

(2) 事実認定につき経験則違反の違法について、

上告人は控訴審において甲号証として和解調書、登記簿謄本、人証などを多数提出申出て上告人の主張を立証した、それ等の証拠の中には所有権移転登記の請求権保全の仮登記がありそれに符合する貸付債権額が明かに認められ認めねばならないのにこれを認められないと殆んど大部分の証拠証言を排斥している。

凡そ事実の認定は合法的、合理性のある証拠に基くのが経験則であるのに第一、第二審判決は経験則を無視し上告人を課税庁の非協力者であるとなす先入観と予断を抱いて本件を審理した違法のものである。

むすび

以上は本件記録を精査した結論であり右理由により原判決全部につき破棄を求めるものである。

以上

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